24h換気システムは全館空調システムの送風に利用出来るのか?

答えは無理です。

24h換気の送風では室温をコントロールする事は難しいです。

と言うより、実質無理です。

 

基礎断熱の床下に一種換気を入れて循環ファンの様なイメージで提案している方々はいますが、あれはプラセボ効果です。筆者は、誇大広告に近いとも思っている。

 

24h換気システムを送風(循環ファン)として機能させることが難しい理由は、送風量が少ないためです。

24h換気は、家全体の容積に対して1時間当たり半分の空気を入れ替える為に作られたモノです。ダクト式セントラル換気の1ヶ所あたりの送風量は20~30㎥/hとなります。

 

例 一般的な2階建て住宅の場合 

35坪:116㎡(天井高さ2.4m) 

必要換気量の計算 116×2.4÷2≒140㎥/h

35坪3LDK 概ね10部屋

(基礎断熱の場合、床下空間を追加)

部屋の構成:LDK、トイレ2、洗面脱衣室、納戸、玄関収納、部屋3、ユニットバス

排気口設置箇所:キッチン、トイレ2、洗面脱衣室、納戸、ユニットバス

*基礎断熱の場合は床下へ1箇所追加。

基本6~10分岐位で設計する。

6箇所排気をする場合、1箇所あたり23㎥/hの送風となる。

循環ファンとして考慮する場合、排気の23㎥/hのみ対象として考える。

一種換気の場合でも給気と排気の46㎥/hを対象と考えるだろうが給気は熱源からの送風にならない為、排気のみを対象に考える。

 

空気が送れる熱量の計算

式1

必要送風量㎥/h=熱負荷の処理量w÷(0.303×吹き出し口の温度差K)

式1-1

熱負荷の処理量w=必要送風量㎥/h×0.303×吹き出し口温度差K

 

分かりやすい言葉にすると

送風出来る熱量w=ファンの送風量㎥/h×居室間の温度差℃÷3.03

 

*本来なら熱量wを顕熱と潜熱に分けて考える必要があるがこの記事では意味を伝える事を優先して記載するので省略して考える。

 

話を元に戻し分かり易くした式に数値を入れると下記の通りになる。

送風出来る熱量w=ファンの送風量30㎥/h×温度差 10℃÷3.03

送風出来る熱量w=99w/一ヶ所 

 

3LDK(LDK+居室3+ホール2)

計6ヶ所:99w×6=594w

結果、循環する熱量594wとなる。

 

エアコンの暖房出力(三菱エアコン暖房強化型)

6畳用エアコンの暖房出力が600w〜6.800w

20畳用エアコンの暖房出力が800w〜11.300w

 

この時点でご理解頂けると思うが一ヶ所当たりの熱量99wと比べると暖房出力差が6倍以上になっている。

 

窓の熱貫流率が1w/㎡・kの物を使った場合

(内外温度差24℃)

腰高(幅2m・高さ1.5)=3㎡

窓の熱貫流率1w/㎡・k×窓面積3㎡×温度差24℃=72w/h

1ヶ所当たり72w/h熱が逃げる計算となる。

1部屋99w/hの送熱で考えた場合、窓だけで72%を失う結果となるため、壁・天井などから逃げる熱分を補う事が出来なくなります。

 

6地域基準 表面積330㎡ 

温度差24℃(最低気温0℃ 室温24℃)

断熱等級5 Ua値=0.6w/㎡・K 198w/K

必要暖房出力4752w

断熱等級6 Ua値=0.46w/㎡・K 151.8w/K

必要暖房出力3643w

断熱等級7 Ua値=0.26w/㎡・K 85.8w/K

必要暖房出力2059w

 

断熱性能が高くなると実質エアコン1台で熱量を補填できる計算になりますが分散させて送風させた場合、1ヶ所当たりの送熱量は少なくなるため、24h換気システムを利用した似非全館空調システム(循環ファン)とは成らない結果となります。

 

唯一可能とするならば、凄く高い断熱性能を必要とします。

ただし、凄く高い断熱性能にすると送風ファンに関係なく室温は一定になります。

その分水嶺は断熱等級6以上と言えば分かりやすいかもしれません。

断熱等級6以上なら可能性が生まれる理由は、既に熱が行き渡っている状況であれば循環ファンを利用しなくても室温が安定するためです。

*気密性も影響するため注意が必要です。

 

結果は、一種換気(熱交換換気)であろうと三種換気であろうと断熱性能が高く24h連続運転していれば循環ファンや全館空調システムの有無は関係なく室温を快適に保つ事が出来るようになります。そして、断熱等級6未満の場合、一種換気(熱交換換気)を利用して熱を全館に行き渡らせようとしても成立する訳がありません。

 

夏場冷たい空気は、空気の比重が重くなるので下降します。冷たい空気を上昇させるためには、非常に大量の送風量が必要となるため、24h換気の送風量程度では役不足となるのです。

*この点においてサーキュレーターの効果に疑問を感じます。部屋の空気を上下循環させて省エネ効果を得る事が有り得ない事だと理解出来るはずです。

 

無駄に循環システムを導入するなら断熱性能を高める方が効果的になります。

 

本来は、設計士が間取り・外観・断熱・壁内の構造(耐震性・通気)などを検討した上で設備の設計を行うのがあるべき姿です。

しかし、設計士が一種換気とエアコンの組合せで全館空調など絵空事を語る輩もおり、設備についての勉強をしないで育っている者を多く見るので書きました。

 

筆者は、設備について専門外なのですが、意味合いを伝える事を優先しているため、『潜熱・顕熱』等の本当は重要な部分を省いて記載してます。

 

以上。