快適な室温を維持するために必要な熱エネルギーは、自然界から見るとそれほど大きくありません。とても弱いエネルギーを建物全体に均一に安定させる事が快適な環境へ繋がります。
人体や家電、調理、そして太陽の日射など、暮らしの中では常に熱が生み出されています。
高気密・高断熱住宅は、それらの熱を逃がさず活用することで室内外の温度差を生み出します。
近年、全館空調システムや全館暖冷房(建物全体を空調対象として24時間冷暖房機器を連続運転させる事)が注目されていますが、本当に省エネルギーで快適な住まいを実現するためには、設備の性能だけでなく、断熱・気密性能や冬の日射取得、夏の日射遮蔽といった建物側の設計が欠かせません。その建物設計において重要な要素になるのが「自然温度差」と言う考え方です。
自然温度差とは、暖房や冷房で無理に作り出す温度差ではなく、生活の中で自然に発生する熱を活用することで生まれる室内外の温度差を指します。
住宅内では常に、
・人体の発熱
・家電製品の発熱
・照明の発熱
・調理による発熱
・日射取得による熱
が発生しています。
高断熱・高気密住宅では、これらの熱を効率よく蓄えられるため、暖房設備に大きく依存しなくても室温を維持しやすくなります。
例えば、外気温が5℃でも、家族4人の人体発熱と家電からの発熱、さらに日射取得が加わることで、室温が15~20℃程度まで上昇するケースもあります。
その結果、
・暖房負荷が大幅に低下する
・室温変化が緩やかになる
・快適性が向上する
・エアコン1〜2台で全館を設定温度に保つことも可能になる
・各フロアに1台程度の設置で十分なため、設備面のイニシャルコストを抑えやすいといった効果が得られます。
住宅設計の世界では、
「暖房能力が高い家」ではなく、
「熱を逃がさない家」という発想が重要になります。
自然温度差は、イメージとして次のように表現できます。
自然温度差 = 発生熱量 ÷ 熱損失量
発生熱量が同じであれば、熱損失量が小さいほど大きな温度差を生み出せます。
熱損失量を小さくするのが断熱性能(UA値)であり、その断熱性能を実際に機能させるのが気密性能(C値)です。
つまり、高性能住宅の本質は、
「暖房を強くすること」ではなく、
「自然温度差を大きくすること」にあります。
日射取得と日射遮蔽が省エネ性能を決める
自然温度差を語るうえで欠かせないのが、日射取得と日射遮蔽です。
冬は太陽の熱を積極的に取り込み、暖房エネルギーの代わりとして活用します。
適切に設計された住宅では、晴れた冬の日中に暖房運転が停止することも珍しくありません。
一方で、夏は同じ太陽光がオーバーヒートの原因になります。
そのため、
・軒や庇の設計
・窓の配置や大きさ
・ガラス性能の選定
・外付けブラインドやシェード
などによって日射を遮蔽することが重要になります。
冬は取り込み、夏は防ぐ。
この考え方が高性能住宅の基本です。
全館連続暖冷房は建物性能の上に成り立ちます。
住宅のエネルギー収支は、
室内発生熱 + 日射取得熱 - 外へ逃げる熱 = 設備が補う熱
という関係にります。
つまり、省エネ住宅の本質は設備能力を高めることではなく、設備が補う熱量そのものを減らすことにあります。
しかし実際には、「全館空調システムがあるから快適」という説明が先行し、建物性能の重要性が十分に語られないケースも少なくありません。
本来の順番は、
1.外皮性能(UA値)
2.気密性能(C値)
3.冬の日射取得計画
4.夏の日射遮蔽計画
5.換気計画
6.暖冷房計画
この順番を無視して設備ありきで全館空調システムを導入すると、建物が抱える熱負荷を設備で処理し続けることになり、結果としてエネルギーロスの大きな住宅になります。
逆に、
・高断熱
・高気密
・適切な日射取得
・適切な日射遮蔽
が実現されていれば、
・冬場は日差しで暖房停止
・春秋は無暖冷房
・小容量エアコンによる全館冷房
も十分に可能になります。
住宅業界では、「高性能住宅」と「高機能住宅」が混同されることがあります。全館空調システムや高度な設備は高機能かもしれません。しかし、高性能住宅の本質は設備の豪華さではなく建物そのものが熱エネルギーに対して合理的であることです。
設備で快適性を作るのではなく、建物性能で負荷を減らし、その残りを設備で補う。
この考え方こそが、快適で省エネルギーな住まいづくりの基本であり、全館暖冷房を成功させるための出発点なのです。